信州邂逅ー異世界少女のラノベ作りー#1
春。
木ノ前輝久春(きのまえきぐはる)は公園の夜桜並木に沿って自転車を漕ぐ。
コンビニまでの道中、開花したばかりの桜をひと目見ようと自宅から少し離れた公園内を通って大回りでコンビニへ向かう。
ぼんやり光る外灯と暖かみのある提灯(ちょうちん)に照らされた桜と澄んだ春の夜空、そして深夜二時の静寂な時間とが重なった昼間と比べて異世界じみた空間を出て、ゆるい坂道を上ってコンビニに到着。
到着するや自転車を雑に駐輪し、無駄のない動きで雑誌コーナーへ。
週刊少年ジャンプを右手に、そのままカップ麺コーナーにてカップヌードルを左手に持って木ノ前はレジ台へ向かった。
「おのしん、いよいよ決着ッスかね」
大きめの黒縁メガネをかけたコンビニの少年店員がピッとレジのスキャナーでジャンプとカップ麺のバーコードを読み取りながら木ノ前に話しかける。
歳の差はあまりないだろう。
「うーん、さすがにもう決着詐欺はないと思いますけど、おのしんですからね」
「いよいよ決着か!?ってページの最後に編集部コメント書かれるのもこれで最後にしてほしいッスよね。レジ袋いりますか?」
「お願いします。この回でもし書かれたら七回目の決着か!?になるかどうか楽しみですよ」
「ネット界隈(かいわい)の反応も楽しみッスね。お会計、五五六円になります」
「PayPay(ペイペイ)でお願いします」
深夜のコンビニにて、何気なく交えた会話の後で木ノ前はコンビニを後にした。
【#2へ続く】