信州邂逅ー異世界少女のラノベ作りー#2
おのしんがどうなるか気になる。
先ほどのパーカー少年客との会話で余計に気になってしまった。
大きめの黒縁メガネをくいっと上げて少年、湯殿目牧尾(ゆどのめまきお)は深夜のコンビニで誰もお客がいないことを確認してから雑誌コーナーへ、ジャンプを手に取る。
【小野が信念を守るため】略しておのしんが載っているページを開いて確認。
「…………、七回目だったッスね」
そっとジャンプを閉じて、湯殿目はレジへ戻った。
◇ ◇ ◇
木ノ前は来た道を自転車で戻る。
家までの最短ルートはもちろんある。あるのだが夜桜を見るという風情を木ノ前は大切にしたい。
何より明日は休み、明後日も休み。そう、今は絶賛春休み中である。
明日の学校に備えて早く寝なければならないという精神的制約はない。
故(ゆえ)の夜更かしであり、夜桜を見るという余裕も生まれた。
再び復路を公園に差し掛かって夜桜並木のトンネルへ入る。
この一年に一度しか咲かない淡いピンクの桜花が木々を覆い尽くす姿を目に焼き付けていた時。
突然、春の夜風が吹き流れて辺りはピンク色の桜花で染まった。
思わず目を瞑ってしまったその時。
目の前に少女が一人立っていたことに木ノ前は気がつかなかった。
そして、初動に遅れた。
【#3へ続く】