信州邂逅ー異世界少女のラノベ作りー#3
乗っていた自転車に急ブレーキをかける。
少女にぶつからないように、同時に左へ急ハンドルを切った木ノ前(きのまえ)はそのまま勢いつけて横転。
地面に叩きつけられた。
「……痛ッ……!!」
強く鈍い衝撃が身体へ直(じか)に伝わり、その痛みに堪える。
「ちょっとあなた!大丈夫!?」
少女が駆け寄ってくる。
「……、大丈夫です」
激痛はない。
硬い石畳やアスファルトの路面ではなく、土の地面だったおかげである程度の衝撃を防げたのかもしれない。
少女の声かけに返事をしながら左腕をまくると前腕の皮膚が少しだけ擦り剥けていた。
「怪我してる。あぁどうしたら。ごめんなさい……、痛い、わよね?」
心配そうにしながら、でもどうしたらいいか分からない少女のその気持ち、分からなくもない。
木ノ前はよろそろと立ち上がりながら転倒の衝撃でカゴの曲がった自転車をゆっくりと起こす。
「もう痛くないですし、謝らなくて大丈夫です。この公園薄暗いですから、……ね、」
一瞬、言葉が詰まった。
改めて見る少女の姿。
衝突しそうになる一瞬の間で木ノ前は目の前に現れた人物が男性ではなく女性。大人ではなく少女だろうと何となく認識はできていた。
しかしその身に付ける衣服に関しては何となく白っぽいもの、という程度だった。
「……、コスプレイヤーさん?」
「はい?」
そう思うのも無理はない。
衣服の胸元に付けられた大きな青いリボン。
衣服は白を基調としたワンピースにスカート部分にはフリルが付いている。
まるで児童文学【不思議の国のアリス】の主人公、アリスのようだった。
アリスのように髪にリボンは結んでいないが、その色は薄い金色(ブロンド)だ。
もっともその髪は少女本来の髪ではなく、人工的な髪(エクステ)だろう。
足元を見れば白いタイツに黒のストラップシューズ。
限りなくアリスに似せてきている少女の姿を見て、木ノ前はコスプレイヤーだと思うのは素直なことだった。
「それは何かのコスプレですか?」
「は?」
しかし少女は何を言ってるんだと思っているかのような表情で木ノ前を見る。
「……あっ」
木ノ前は察する。
もしかしたらそれが普段着で、少女からしたらその衣服は至って真面目(ガチ)なのかもしれない。
「あー、ごめんなさい。コスプレという単語の意味が分からなくて。えっと、あぁ、今分かったわ。これはコスプレじゃないの。第三正装(だいさんせいそう)といって王族の、うーん、何て説明したらいいのかしら……そうね、式典とかじゃない時に出かける用の服なのよ!」
「そうなんですね」
真面目(ガチ)だった。
そして痛い人だ。王族とか言ってるし。
「さて、それじゃあ俺行きますんで」
木ノ前は自転車のペダルに足をかけ、ぺこりと軽く会釈をしてから力を入れてカゴの曲がった自転車を前進させる。
左足に若干の痛みはあるが、ペダルを漕げないわけではなかった。
【#4へ続く】