信州邂逅ー異世界少女のラノベ作りー#4

 早く帰ろう。

 

 帰ってジャンプを読みがらカップ麺を食べ、冷蔵庫の冷えたコーラを飲むのだ。

 

 幸福時間(ハッピータイム)は誰にも邪魔されてはいけない。

 そう固く信じて木ノ前は自転車のペダルに力を入れる。

 転倒の衝撃で若干の痛みを抱えながら前進するが。

「ちょっと待って」

 コスプレ少女の小さな手が木ノ前の服の裾(すそ)を掴んだ。

「な、」

 何ですかと言葉を発する前に少女の言葉が重なる。

「その、私と友達になってほしいのだけど」

「え?」

 初対面でこの場面(タイミング)ですかと、不意の状況に木ノ前は同様を隠せない。

 暗がりで分かりにくいが少女の頬がそこはかとなく赤く染まっている気がした。

「……何か特別な事情でも?」

 出会ってすぐ、それも数分後の友好関係(フレンドリー)は生まれて初めての経験だ。

 何か裏があるのかもしれない。

 そう思ったが、こうも考えた。

 少女は木ノ前に一目惚れしたのだ。

 そう考えると、生まれて初めての経験に木ノ前の心はドキリと揺れ動く。

 少女の二言目に一目惚れです!という言葉が出てくるのを少しだけ期待する。

「特別な事情、そうね、どうしよう……、あるにはあるのだけど、うーん、……、」

 言い悩むコスプレ少女に、この感じはもしかしたらあり得るのかもしれないと少女が何を喋るのか身構える。

「上、上を見てくれるかしら」

「上?」

 悩んだ末のコスプレ少女の人差し指が夜空を差す。

 それにつられて上を向いた木ノ前は、今日という日を忘れない。

 夜空には満点の星空────という日常的な風景はなかった。

 あるのは神秘に輝くオーロラのカーテン。

 いや、オーロラという表現は適切ではないかもしれないと木ノ前は思った。

 極地で見られるオーロラをこの場所で見れることはありえないからだ。

 それならば上空のあれはなんだと、心拍数が跳ね上がる。

 写真で見るようなオーロラなど比べ物にならない。

 夜空には色濃く輝く、巨大な光の幕が垂れ下がっていた。

 【#5へ続く】

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